一枚の風信子72

健康器具を造って、売り出したことがある、その名を「ヘルス・クルミ」という。西洋クルミを、縦割りにして中身を取り出し、その代わりに「トルマリン」と「水晶」の砕片を詰め込んで元の形に張り合わせたもの。「トルマリン」は、電気石と呼ばれ、血行を良くするということでちょっとしたブームになっていたし、「水晶」は気を鎮める効果があると聞いて、両方のいいとこ取りをたくらんだのである。もともと、クルミそのものが手指を動かすためのリハビリに使われていたこともあって、その効果をさらに高めたものとして売れば、そこそこは行くんじゃないかと考えたのである。実際に、自分で使ってみて、ハインキングなどでこれを握って登ると、息が上がりにくくなる(動悸が治まる)という効果を体験した。カミさんも同様だった。これはひょっとしたらと思って、いくつかの雑誌にプレゼント付きの記事広告を出してみた。
結果は、あえなく玉砕。
販売個数64、リピート(再注文)数わずか３個という厳しい数字だけが残った。「トルマリン」のブームが去っていたこともあるが、最大のネックは効き目の遅さにあったと思う。劇的には効かないとダメみたいなのだ。もうひとつ、こんなもんで良くなるの？という素朴な疑問を拭えなかったこともあるだろう。
で、現在分かっている限りの愛用者は、私一人ということになった。
世の中、甘くないね。

「いいんだけどなあ」とボヤキながら、一枚パチリ。